美食批評への誘い  Vol.41~

クリティーク・ガストロノミック

 
フランス現代思想家

関  修(せき おさむ)

第五十六回
世に同好の士は多かれど
――Facebookに見るワイン事情――

 Facebookを始めて数か月。自分はブログで実現出来なかった日々の「クリティーク=批評・批判」の実践の場と位置づけ、いくつかのテーマに関して毎日一つ文章をアップするよう努力しています。美食については食事に出かけた際、その模様を画像でアップし、後日、飲んだワインに関して論評するという形を取っています。ワインを飲みますので、当日帰宅してクリティカルな文章を書くのは難しく、その日は報告だけになってしまいます。ほとんどの方が日々の出来事の報告をFacebookの使用目的とされているようですので、筆者のスタイルは例外的というか少数派というか。この場合、後日、ワインはエチケットを添付して批評しやすいのですが、料理に関してはどうしても個々に論評するわけにもいかず、ブログでのある程度まとまった文章を書く必要性が出てきます。しかし、毎日Facebookに批判的エッセをアップするとなるとその上にブログまで書く余裕は今の筆者にはなく、ちょっとしたディレンマを感じます。  
 
 また、ワインに関しては「エチケットは語る」という筆者のエチケット剥し(ヴァンテックス)のコレクションからアップするに足るものを選んで紹介しています。1995年、パリで飲んだワインのエチケットを全部紹介し終わり、1997年に飲んだワインを紹介し始めたのですが、ここで気づいたことはすべてのエチケットを紹介するつもりはないことです。当時、人生で一番ワインを飲んだ時期にあたり、外で飲んで帰っても、二日で一本、ボルドーのブテイユを家で空けていました。しかし、家で飲んだワインまで紹介していると、三十年近く集めたエチケット、ほんの一部の年月しか紹介出来ないでしょう。するとどうしても希少性のあるものや高価なものばかりが選ばれることになり、日常飲みのワインをどの程度紹介するかは頭を悩ませることになりそうです。
 
 もちろん、日々の出来事をアップするのも取捨選択しているのであり、そこには何らの基準や理由があるに違いありません。しかし、筆者の場合、あくまで批評の対象として選ぶ必要性がありますので、さらなる別のフィルターが存在することになります。
 
 というのも、Facebookにはグループという機能があり、様々なテーマで集ういくつものグループがあり、公開、非公開で情報を発信しています。筆者は「建築」や「クラシック音楽」にも興味があるのですが、ともかくどんなものなのか、ものは試しと「ワイン」に関するグループに入ろうと調べたら、まあワインだけで膨大な数のグループがあるではありませんか。こういう時、Facebookが便利というか、ある種の誘導なのですが、お友達が入っているグループが優先的に出てくるようになっているのです。で、数名のお友達が参加されているグループに入ってみることにしました。一つですと比較する対象がありませんので、対照的なグループを二つ選んでみました。一方はメンバーが一万四千人でプライベートグループの「東京ワイン倶楽部」、もう一方はメンバーが1700人弱で公開グループの「SNW『死ぬまでに飲んでおきたいワインの会』」です。
 
 興味深いのはメンバーが多い方がプライベートつまりメンバー間でのみ閲覧可能になっており、メンバーが少ない方が公開になっていることです、まあ、後者はテーマが「死ぬまでに飲んでおきたいワイン」ですので気軽な日常のワイン生活の報告とはいかないわけで、しかもそれだけ貴重なワインであれば、一人でも多くの方に知って欲しいというのも頷けます。実際のところ、あまり投稿されていないようで時折見かける感じでしょうか。それに比べ、前者はともかく凄い投稿数でFacebookを開けると必ず上の方に数軒の投稿が載っています。まあ、一万四千人のフォロワーを持つブロガーのようなもので、しかも投稿したものは確実にフォロワーのFacebookに掲載されますのでプライベートというか、今流行りのちょっとした「サロン」のようなものではないでしょうか。ただ、所属しているグループ以外の情報、「建築」などのグループの情報、さらにワインですと「広告」、様々なインポーターのネット販売にリンクするもの、また筆者の場合は、外国のいくつものオーケストラのサイトの紹介、さらにNHKのアーカイヴの投稿など、自動的でしょうがともかく色々な投稿が掲示され、肝心のお友達の投稿を探すのに一苦労するという有様。
 
 筆者はお友達がどのような投稿をされているのか、結構気になる方です。また、「いいね」を押して下さっている方の投稿を自分が無視するのは失礼ではないかと思ってしまう質です。まだそれほどお友達の数が多くないのにこの混乱ぶりですので、何百人、上限の五千人に近い友達を抱える方のFacebookにはどのような取捨選択の結果が表示されているのか、まったく想像できません。三十名までの「お気に入り」指定したの方の投稿が優先的に表示されるらしいのですが、そうなるとそれ以外の友達は膨大な数の広告やら何やらにまぎれて目に留まりにくくなる、見落としてしまうのではないか、と。
 
 その点、この「グループ」というのは「同好の士」であって「友達」ではないので、その方がどのような方で他にどのような投稿を行なっているか気にすることなく、グループのテーマに関する当該の投稿だけチェックすれば良いので気が楽です。というか、筆者の場合、「ワイン」だからでしょうか、投稿された「同好の士」の「人となり」などほとんど興味がなく、ただただ紹介されたワインだけをチェックしているだけです。とりわけ、「東京ワイン倶楽部」の方は日々のワイン生活の報告なので、畢竟、金持ちか一般庶民かの二者択一になってしまいますので、背景は捨象して、紹介されるワインの銘柄とその紹介の仕方だけに着目して、そこから様々な傾向を導出するのがよろしいかと思われます。
 
 いくつかの大きな傾向を挙げてみましょう。
 まず、家で飲むか、外で飲むかがはっきりしていることです。毎日のように同じ店で飲んでいるワインを紹介されている方がいらっしゃいます。それもその店を含むある系列店に通われている方たちが結構の数いらっしゃるようで。まさに同好の士なのかもしれませんし、関係者なのではないかと疑ったりしてしまったり。いずれにせよ、筆者はその系列店を評価していません。ワインの値付けも高いし、さほど品揃えも良いとは思えませんので。面白いのは、外飲みの場合、高級レストランでの食事について報告する方は滅多にいないということです。個人的には、今流行りのミシュラン一つ星クラスの店はどのようなワイン揃いで、ワイン通を名乗る皆さんがどのようなワインをオーダーされるのか、そうしたことが知りたいのですがそういった投稿は見かけたことがありません。外飲みは某系列店のようないわゆるワインバー的なものか、あるいは同好の士によるワイン会か。
 
 それに対して、家飲みは料理中心というか、まあ晩酌的なものの投稿なのでしょうから色々料理は並ぶのでしょうが。象徴的だったのはお正月。おせち料理だのまあこれぞというばかりにご馳走の写真が何枚もアップされ、肝心のワインはまるでおまけのように料理の脇に置かれているだけだったりして。ですので、家飲みの場合、圧倒的にシャンパーニュが紹介されることになります。セオリーからして、シャンパーニュほど料理を選ばず、何ともマリアージュ可能なワインは他に存在しません。興味深いのは、スパークリングなら何でもいい訳ではなさそうで、皆さんシャンパーニュを選ばれること。もちろん、日本ワイン愛好家の方は日本のスパークリングですし、イタリアワインの愛好家の方はフランチャコルタやプロセッコなどを飲まれていますが、これらはあくまで自分の好きな国のワインが第一選択条件でスパークリングはTPOに従っただけ。それに対して、料理自慢の方たちはスパークリングであることが第一条件なのでしょうが、何故かシャンパーニュにこだわりがあるようで。
 
 個人的には大変良い趣味だと思います。2000円ほどでもシャンパーニュは買える物があるのですが、皆さん美味しくないとおっしゃるが、同じ値段のクレマンと比べてみれば、シャンパーニュはシャンパーニュな訳で、クレマンとしては標準価格でしょうが、「腐ってもシャンパーニュ」とでも申しますか、やはり安シャンパーニュの方が美味しいのです。クレマンで美味しいなあと思ったのは、代官山にあるアルザス料理のタルト・フランベの専門店「コテ・フ」で出されたものくらいでしょうか。もちろん、クレマン・ダルザスなのですが、値段的には通常のグラスシャンパーニュと同じ値段ですので、シャンパーニュに匹敵するという形でカリテプリな訳ではありません。また、イタリアのフランチャコルタもシャンパーニュ方式で造られ、味もシャンパーニュに劣りませんが値段もシャンパーニュと同じくらい高いです。本来なら、スペインの「カヴァ」が選ばれてしかるべきなのですが、見かけたことがありません。シャンパーニュ方式で造られていて、価格は1000円台ですみますので家飲みスパークリングとしては最適なのではないかと思うのですが。確かに筆者もカヴァをあえて飲もうとは思いません。スペイン料理屋に出かけ、食前酒にスパークリングがカヴァしかなければ頼もうと思うか思わないかくらいです。
 
 しかし、それは味云々というより、ご馳走には「シャンパーニュ」というブランドが相応しいからではないでしょうか。それがフランス料理である必要はなく、おせちはもとより、中華でも寿司でも、はたまた我が家自慢の「肉じゃが」でさえ、シャンパーニュと並べることでまさに「映え」するからではないかと思われるのです。
 
 それに比べるとスティルワインは平気でコンビニで買ったようなワインが登場します。でも、逆説的にも思われますが、この場合、あくまで主役はワインの方で、一緒に写っている料理はまさしく「つまみ」程度の意味しか持っていないと考えられます。今日はワインショップによる時間がなかったので、コンビニで買ったワインでご勘弁。毎日欠かさずワインで晩酌するまさにワインのある日常を一万四千人のフォロワーに伝えるために。
 
 こうして、スティルワインに関しては、高価なワインかコンビニワインのようなデイリーワインかの二極化が生じてしまい、肝心の「ワインを知るに相応しい適正価格のワイン」がゴッソリ抜け落ちてしまっているように思われます。会員用ではこの問題について論じてみたいと思います。
 

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著者Profile

関 修(せき おさむ)

フランス現代思想
文化論
(主にセクシュアリティ精神分析理論/ポピュラーカルチャースタディ)
現在、明治大学法学部非常勤講師。
2014年、明治大学で行われた「嵐のPVを見るだけの授業」が話題となった。
 

経歴

1980年:千葉県立船橋高等学校卒業
1984年:千葉大学教育学部卒業 
1990年:東洋大学大学院文学研究科哲学専攻博士後期課程単位取得満期退学、東洋大学文学部非常勤講師 
1992年:東洋大学文学部哲学科助手
1994年:明治大学法学部非常勤講師  、他に、岩手大学、専修大学、日本工業大学などで非常勤講師を務める 
 

著書

『挑発するセクシュアリティ』(編著、新泉社)
『知った気でいるあなたのためのセクシュアリティ入門』(編著、夏目書房)
『美男論序説』(夏目書房)
『隣の嵐くん~カリスマなき時代の偶像』(サイゾー)
『「嵐」的、あまりに「嵐」的な』(サイゾー)
 

翻訳[編集]

G・オッカンガム『ホモセクシュアルな欲望』(学陽書房,1993年)
R・サミュエルズ『哲学による精神分析入門』(夏目書房,2005年)
M・フェルステル『欲望の思考』(富士書店,2009年)
 

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